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週刊ファミ通No.1103 浜渦正志さんインタビュー
掲載:2010年2月4日・11日合併号
打ち込み曲とオーケストラの融合
──
本作の楽曲制作のコンセプトは?
浜渦
『XIII』は近未来的なイメージの強い世界観である一方、
『FF』シリーズらしい壮大さを持ったゲームでもあります。
ですので、近未来的なサウンドと、豪華な編成のオーケストラが奏でる
壮大さを併せ持った"ハイブリッド"という
キーワードがコンセプトになりました。
──
作曲期間はどれくらいだったのでしょう?
浜渦
本格化したのは2008年9〜10月で、
体験版に併せて『FFXIII 〜誓い〜』や『ブレイズエッジ』などの曲を作りました。
実質の開発期間はほぼ1年で、幸いなことにボツになった楽曲はありませんでしたね。
──
『FFX』が複数人での作曲だったのに対し、
ひとりで『FFXIII』という大作を任されることにプレッシャーはありましたか?
浜渦
もちろん(笑)。
僕自身『FF』や『ドラクエ』をリアルタイムで遊んでいて、
当時からこういった作品の音楽を担当したいと思っていたので、
『FFXIII』のお話が来たときはうれしかったんです。
でも、当時はファミコンの音源だったのが、生のオーケストラを使えるようになったり、
ユーザーの反応がインターネットなどを通じてダイレクトで届いたりと、
状況がかなり変わったこともあって、プレッシャーは大きかったですね。
──
今回は打ち込み(コンピューター上で作曲、編曲を行い、音源を作ること)で
作った曲をベースに、オーケストラで録った音を加えるという手法が多かったそうですね。
浜渦
国内のオーケストラだけで曲を演奏すると、
キレイでまとまりのある音になる反面、あまりパワーが出ないときがあるんです。
また、曲にさらなる奥行きを加えたいという思いもあったので、まずは打ち込みで
完成状態の曲を作って、そこに生のオーケストラを混ぜ込むことで、
大きなパワーを加えました。
──
打ち込みで完成させた状態にひと手間かけるのは大変なのでは……。
浜渦
打ち込みでざっくりした曲を作ってアレンジャーさんに渡し、
オーケストレーション(渡した曲をオーケストラ用の譜面にしてもらうこと)してもらうという
手法もあるのですが、僕は打ち込み段階からしっかり作るのが好きなんです。
まずそこでがっちり作って、そこにオーケストラをかぶせれば、
ほかにないものができるかなと思いました。
──
一部楽曲はポーランドのワルシャワで録音されていますが、そこを選んだ意図は?
浜渦
ワルシャワでも生のオーケストラをレコーディングしましたが、
コーラスを含め100人を超えるスケールでした。
東欧の音楽が好きだということもあるのですが、僕がふだん作るような曲は、
和音がぶ厚かったり、細かい動きが多いほうだと思っていて、
そういったイメージの音楽に合っているんじゃないかと。
あとピアノの音がけっこう入っていますが、それとオーケストラが深く絡み合うには、
ワルシャワが合っているんじゃないかという考えもありました。
鳥山氏との信頼で作る楽曲
──
跳ねるようなピアノや、流麗な弦のフレーズなどは
浜渦さんらしい旋律だと思うのですが、それは意識しているのでしょうか?
浜渦
曲を作ろうとすると、自然とたくさんの楽器を使おうとしてしまうんです。
その中でも、やはりピアノが出てくることは多いですね。
ピアノの有無によって曲が大きく変わるのと、
いろいろな表現ができるので、やっぱりピアノは好きなんですよ。
──
本作の曲で浜渦さんのテイストが色濃く出ているのはどの曲でしょうか?
浜渦
自分にもいろいろな側面があると思うのですが、
『FFXIII プレリュード』の構成は自分らしいなと思います。
あと『Choose to Fight』という曲は、リズムの打ち込みにギターやベース、
ピアノ、ティンパニ、さらには生のバイオリンとチェロを使っていて、
しかも歌が乗っています。
こういう編成はいかにも自分らしいと思います。
──
ファンからは『閃光』の人気が高いです。
浜渦
じつは『閃光』はそれなりに計算して作った曲なのですが、
それが受け入れられたのはうれしいですね。
サビのメロを反復させて覚えやすくしつつも、コード進行は変わっていくという、
覚えやすいけれど飽きの来ない曲にできました。
『FFXIII』で最初に作った曲なのですが、うまくいきましたね。
──
曲はいつも理詰めで作るのでしょうか?
浜渦
ふだんはインスピレーションで作るのですが
『閃光』だけは理詰めで作りましたね。
自分の中では珍しいほうの曲です。
──
『閃光』や『FFXIII 〜誓い〜』など、多彩なアレンジバージョンを作っていますよね。
浜渦
まずひとつはメロディーを印象づける狙いがあります。
あと、本作にはいろいろなサウンド、ジャンルの曲がありますので、
ロックだったり、オーケストラだったり、聴きかたによっては
曲のイメージがバラバラになってしまうこともあると思います。
その中でひとつのモチーフを散りばめると統一感が出るかなと。
いいアクセントになりました。
──
ディレクターの鳥山求さんとは、楽曲についてどのようなやり取りをしましたか?
浜渦
僕は鳥山さんをすごいディレクターだと思っていて。
音楽について専門的な知識はお持ちでないと思うのですが、
すごくセンスがあるんです。
たとえば、1曲の中でも使いどころによって曲の表情が違います。
鳥山さんは、あるイベントシーンでは曲の途中までを使い、
別のイベントでは途中から使ったりして、それが見事にハマる。
そういう選曲技術は本当に優れていると思いました。
やはり音楽に理解の深いディレクターと仕事ができるのは
ありがたいのですが、今回はとくに音楽を大事にしてくれて、
とても作りやすかったですね。
──
作ったときに「いいものができた」という手応えを感じた曲は?
浜渦
恥ずかしいですが、作っていて感動することはけっこうありますね。
『FFXIII プレリュード』という曲がボツというか、
1回お蔵入りになりかけた時期があって、しばらく眠らせていたんです。
それで開発末期にいよいよゲーム起動後のループデモを作ることになり、
ふと「あの曲が合うはずだ」と思い使ってみました。
そしてそれをさらにアレンジした『奇跡』のデモを作ってみたら、
翌日鳥山さんから「泣けました」というメッセージが(笑)。
当初僕が狙ってよくできたと思っていた曲がいいところで採用されて、
非常にうまくハマったときにはかなり手応えを感じましたね。
ボーカル曲への新たな挑戦
──
『FF』シリーズのおなじみの曲を使わなかったのは、
あえてそうしたのでしょうか?
浜渦
とくに使わないようにしようという意識はありませんでした。
そういう意味では、植松さん(植松伸夫氏。『FF』シリーズの多くの作品を
手掛けるコンポーザー)も『FF』も意識していませんね。
戦闘後のファンファーレは、体験版よりもまえに制作された
α版の時点で作っていました。あとで変えることも想定していたのですが、
バトルのテンポが非常によく、バトルからリザルトへとポンポンと進むので、
あまり長いファンファーレは合わないなと思って、
その結果、α版のものをベースにすることに決めました。
──
逆にチョコボの曲だけはメロディーを変えなかったのはなぜでしょう?
浜渦
さきほど『FF』を意識しなかったと言いましたが、
こちらは変える意味を感じなかったので、
とくに意識せずに使おうと思いました。
あと、もともと僕が初めて担当したゲームが『チョコボの不思議なダンジョン』と
いうこともあり、当時アレンジした曲をさらにアレンジするのは
やりやすかったというのもあります。
──
ボーカル曲をBGMにするという『FF』では珍しい試みもされていますね。
浜渦
ボーカル曲を担当した歌手は3人いて、
知人のフランシス・マヤ、Mina、それと僕の嫁で、
あとコーラスで僕の娘も歌っています。
今回は詩を優先しすぎた曲にはしたくなかったこともあり、
鳥山さんに詩のコンセプトをもらったあと、
フランシス・マヤにメロディーを尊重した歌詞を書いてもらいました。
歌手本人が書くことで、メロディーを活かしたキレイな発音の曲にできたと思います。
──
ボーカル曲を含め、レコーディングの雰囲気や仕上がりはどうでしたか?
浜渦
やっていて楽しかったのはボーカル曲ですね。
収録はいつもどおりだったのですが、
ゲームに歌モノを当て込んでいくという過程が楽しくて。
ゲーム楽曲でボーカル曲を担当することは珍しいのですが、
鳥山さんにいくつかの曲をボーカルつきで提案したら
「オーケーです」とあっさり言われました(笑)。
インストゥルメンタルの曲だと、同じ音程が連続するようなメロは、
ややもするとかっこ悪かったりするのですが、
そういうフレーズは歌になると違和感がなくなりやすいんです。
曲作りの幅も非常に広がって、こんなにおもしろいなら
今後もやりたいなと思いました。
──
『君がいるから』、『Eternal Love』などのテーマソングも手掛けられましたね。
浜渦
ゲーム中にかかっている歌モノと違って、
市場にそれ単独で出ていくものですし、
菅原紗由理さんのアレンジやプロデュースをされる方がアレンジャーということもあって、
基本的にコンセプトを伝えるだけのものを作ってお渡ししました。
アーティストを尊重する、だいぶ毛色が違う曲になりましたね。
──
1月27日には、本作のサウンドトラックが発売されますね。
浜渦
全4枚組の85曲を収録していますが、
自分でもこんなにお腹いっぱいのアルバムができ上がると思ってはいなかったので、
最後までぜひ聴いてほしいですね。
──
では、ユーザーの方々にメッセージを。
浜渦
『XIII』の楽曲は、どの曲も印象に残るものになったと思います。
これまでは『サガフロンティア2』などを代表作に挙げることが多かったのですが、
今回の『FFXIII』も代表作に挙げられる1本になりました。
ハミ出しインタビュー
──
打ち込みとオーケストラ演奏の違いは大きい?
浜渦
曲によっては打ち込みが好きな人もいます。
開発中に生演奏の曲が誤って打ち込みバージョンに替わったことがあって、
その曲を聴いた鳥山さんが"カッコよくなってると思った"と言っていたことがあり、
苦笑いしたことも(笑)。
──
お嬢さんがコーラスに参加されているそうですね。
浜渦
遊び心と言いますか、デモを作る際に
パッと頼める人もいなかったので、娘にお願いしまして(笑)。
あとで変えようと思っていたのですが、声をイジりやすくて、
調整したら透明感が出たので、そのまま採用してしまいました。
──
各キャラごとにテーマ曲がありますね。
浜渦
サッズやホープの曲などはサウンドや編成自体を変えることで
キャラクターのイメージを表現しました。
たとえばホープならギター1本の曲を主体に、サッズならバンド編成にしたりと、
その音を聴けば誰でもわかるように意識しましたね。
──
各キャラごとのテーマ曲はどう作りました?
浜渦
今回はイベントやムービーの流れに合わせた専用曲を作ることが多くて、
それらのシーンを観る機会が多かったんです。
その影響で設定よりもゲームの流れを観ながら、各キャラについて
こういう人物だろうと想像して作っていきました。
──
各キャラのテーマ曲のポイントは?
浜渦
ヴァニラは、彼女がナレーションをしていることもあり、
ヴァニラのテーマのサビと、『FINAL FANTASY XIII プレリュード』のサビを
同じ旋律にしています。そこでシナリオの奥行きを表現しているのですが、
どこまで効果が出ているかはわかりません(笑)。
End of Documents.